とある日本語教師の身辺雑記

中国の大学で日本語を教えながら、日常の雑感や出来事を気の向くままに綴ります(最近は麺と猫と自転車が主)。

卒論代筆サービスに思う。

とある場で卒論代筆サービスの広告をシェアする大学生を目にした。
ふと思う。 
大学生に向かって「大学生なら卒論ぐらい自分の頭を使って真面目に書きなさい」(ほとんどの人にとっては、金や職位に関係なく、自由に自分の頭を使える最後のチャンスなんだし)と思うことは、そんなに的外れなことなのだろうか。 
そもそも私は卒論執筆が大学4年間の勉強において最高の喜びだったので、わざわざ金を払ってまで「卒論代筆サービス」を利用する人間の気がしれない。 
もちろん、そんな怪しいまがい物稼業は古今東西問わず、これまでも存在していた。 
しかし、これまでは「トイレの落書き」で済んでいた「卒論代筆」の広告を、「リーズナブル」で「合理的」なビジネスとして、光が当たる公共の場で堂々と宣伝する人間やサービスがのさばり始めたのは、私が知る限り、新しい現象である。 
誤解をしてほしくないが、べつに私はそれを責める気はない。 
自分のご飯のために「倫理」とか「ルール」を平気で無視する人間がいることぐらい、私だって知っている。
私だって「悪者」に「そんな悪いことするな」と怒るほど世間知らずでもないし、「ああ、なぜこの世はこんなに善が通じないのか」と悲嘆するほど純粋無垢でもない。 
いつの時代も「悪者」はいるし、「善が通じない」。 
それは一教師にすぎない私には如何ともしがたいことである。
私が一教師として解せないのは、そういう「サービス」を利用する学生が現に存在することについてである。
さらには、彼らがそういうサービスを利用したりシェアすることに対して、なんら羞恥心や抵抗感を覚えていないように映ってしまうことである。(これは私の主観だが) 
だって、「卒論代筆サービス」って、 
「お前ら自分で論文書く気もないし書く実力も無いんだろ? 金出せばおいらが書いてやるよ」 
という、「顧客」である大学生の知性を端からバカにして見下した人間によって提供されているサービスでしょ。
ほんとうに大学生の知性を尊重してビジネスをする人間ならば、そんな人を舐めた「サービス」を思いつくだろうか。
なにより、学生諸君は「顧客」として、そういう「サービス」を利用したいかい?
あくまで私の話だが、そんな無礼な人間や会社が提供する「知的サービス」を、私は死んでも使わない。
たとえ卒論が通らずとも、私は自力で書く。 
どうせ「アカン」なら「アカン」なりに自己満足を自給自足したいし、もし「すげえ」ならその「すげえ」を自給自足したものとして捉え、自己満足したい。 
だから私なら、自分で書く(現に書いた)。 
そして「すげえ」と自己満足することを目指す(現に目指したし、ある程度満たされた)。 
そして思うことだが、卒論なんてもんは、自力で書けば通るもんなのである。 
「顧客」を「バカ」として想定した経済活動。それを私はビジネスではなく搾取と呼ぶ。 
で、当然、そうやって人をバカにしたり見下した人間や企業のサービスに対して 
「あ! これ、助かるかも。ラッキー♡」 
なんてふうに、無思考かつ脊髄反射でホイホイ金を払う人間は、卒業したあとも、 
「お客様、こちらはとてもお得ですよ(オイラにとってね、ふへへ)」 
という「悪者」に、
「わ、これがこんなリーズナブルなお値段で? 買います!!」 
と搾取され続ける可能性が高い。 
あくまで私見だけれども、卒論って研究とか学術云々以前に、自分がそういう「バカ」な人間であり続けないための脱出口を探す「最後の訓練」としての教育効果を持つものだと、私は思うんだけれども。 
それとも、
「いや、私は楽して卒業するためにあえてバカのふりをして金払っているんだよ」
ということだろうか。 
なるほど。 
しかし、あくまで私の考えだが、いわゆる「バカ」について適切に把握でき、なおかつ「バカ」と「バカのふり」を自他共に客観的かつ合理的に区別でき、さらには「バカ」と「バカのふり」を意識的に演じ分けることが可能な学生さんなら、そもそも卒論なんか、ちゃちゃっと自分で済ませることができると思うけれど。
それに、そもそもそこまで賢い学生さんは、「そこまで賢い」自分が「バカのふり」することにすら耐えられないのではないかと思う。 
兼好法師曰く、「狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり」。
どうせ「狂人」と評されるなら、私は「ふり」をして大通りを走り回るより「全力」で狂って暴れまわりたい。 
少なくとも、私はそう思う。 
それとも、
「ぐだぐだうっせーよ、そこまで考えてないし、第一どうでもいいだろ、ほっとけよ!」 
ということだろうか。 
だとしたら、「あ、なるほど。だから卒論書けないのね」というしかない。
あ、そういうことか。 
なるほど。