自転車で2泊3日巣湖1周旅行(まえおき)
8月も中程に差し掛かり、夏休みも残すところ一週間となった。
私はこの夏休みのほとんどを自宅と大学とで過ごしてきた。もちろん旅行やキャンプなどはしていない。
私の周りの先生方や学生さんのなかには、長期休暇に入るやいなや弾け飛ぶように旅へと出る人が多い。彼らは休暇が近づくと喜々としてカバンに荷物を詰め、スマホで切符とホテルを予約し、電車や飛行機に飛び乗ってどこかへと向うのである。
対して私はあまり旅行というものをしない。
その理由の一つには、一家総出で外に行き何かをするという習慣が薄い家庭で育ったということがあるだろう。
私が大学に合格し18歳で実家を離れるまでのあいだ、父の友達づきあいの一環として家族全員で参加していた一時期のキャンプを別とすれば、家族で旅行に出かけた記憶がない(一度も)。
家族揃って外食したのだって、数年に一度か二度、焼肉や寿司を食べに行ったぐらいしかない。
私が旅行をあまりしないもうひとつの理由には、私が交通機関での移動をあまり好まないということがある。
私が移動を好まない理由は、移動中は動けないからである(なんか矛盾した表現だが)。
私があまり旅行をしないというと、よく「あー、あんまりあちこち見て回るのが好きじゃないんですね」という人がいるが、それは誤解である。
私は動きたくないわけではなく、むしろ動きまわりたいのである。だからこそ移動している途中じっとしていることを強いられる電車やバスや飛行機などに乗ってどこかへ行くことが嫌いなのである。
ようは私は基本的にひとつの場所にじっとしているのが苦手なのだ。
そういうことで私はあまり積極的に旅行をしない。
とはいえ、さっきも言ったように私はむしろ外に出て行ってウロウロするのは好きな方なので、別にアウトドアが嫌いとか、家の中でじっとしていたいとか、そういうわけではない。
そのため、3年ほど前にマウンテンバイクを買ってからというもの、ときどき自転車に乗って日帰り100キロ圏内をウロウロするようになった。
そして自分の足でべダルを踏みしめ汗をかきつつ変わりゆく風景を眺めることは、とても楽しいことであると知った。
自転車にハマった人間にとっては必然的なことだろうが、そのうちに私は日帰りの“骑行”(ツーリング)だけではなく、泊まりがけの自転車旅行もしてみたいと思うようになった。
しかし、それを外国で実行するとなるといろいろ面倒が多いものである。
とくに中国では外国人が泊まれるホテルは「三ツ星」以上と決まっているので、あまり見知らぬ田舎に行ってしまってからいざ宿を探す段になって泊まるところがないとなると困る(まあ、そんなの無視する人もいるかもしれないが、私は就労ビザをもらってこの国で働いているわけだし)。
じゃあ野宿をすればいいじゃないかということで自転車にテントを積んでどこか適当なところで野宿をするというのも、やっぱり外国で一人だと怖い(野宿自体にはとても興味があるのだが)。
ということで、これまで自転車旅行はしたことがなかった。
しかし、せっかくの長期休暇。
自転車でどこかに行ってみたいなあ。
なんてことをこのまえ学生さんたちと食事しているときにこぼした。
すると、最近自転車に興味を持ち始め、試しにシェアサイクル(重いし漕ぎにくいんだよ、これが)で45km走ってみたというOさんと、以前友だちと自転車旅行をしたことがあるというRくんが、「じゃあ巣湖一周しましょう」と持ちかけてくれた。
おお。
これは安心して自転車旅行をするいいチャンスである。
それに巣湖は前々から一周してみたかったんだよね。
そういうこともあり、私は間髪入れず「あ、それいいね!」と飛びついたわけである。
ところで巣湖とは「中国5大淡水湖」の一つであり、私が住んでいる合肥市の南に位置する、ハート型というかなんというか、なんともユニークな形をしている湖である(私には鶏に見える)。
合肥市内には「南淝河」という川が流れているのだが、これを下流に沿って行くと最終的に巣湖に流れ込んでいる。そうして巣湖の水となったあとで巣湖市内を流れる裕溪河の流れの一部となり、最終的には長江に注ぐこととなるのである。
巣湖一周は合肥の自転車乗りの間ではかなりメジャーであり、同じく自転車が趣味でなんどか一周したことがある知り合いのH先生によれば、一周だいたい160kmとのこと。
そのぐらいの距離なら朝早く出れば一日で回れるかもしれない。
けれど、せっかくだからゆっくり時間をかけて風景を楽しみたい。
それに今回の目的は日帰りではなくお泊まりだしね。
ということで、今回は2泊3日の行程で周辺のスポットを巡りつつ一周することにした。
それにしても大きな湖である。
調べてみたところ、巣湖の面積は769.5平方km。日本最大の面積を誇るご存知琵琶湖が約670平方kmだから、相当広いことがわかる。
ちなみに中国最大の淡水湖は、同じく「中国5大淡水湖」の一つである江西省の鄱阳湖(po2yang2hu2)で、総面積はなんと3914平方kmとのこと。埼玉県の面積が約3797平方kmとのことだから、その広さが実感できる。
……ということを書いたあとでよくよく考えてみると、埼玉県に行ったことも住んだこともない私は「埼玉県より広い」と言われたって、実はよくわからない。
さっきは「琵琶湖より広い」なんていったけれど、そもそも琵琶湖だって行ったことも見たこともないのである。
だから「巣湖は日本一広い琵琶湖より広い」と言われればなんとなく「わー、すごい」とは思うけど、よくよく考えればいまいちピンと来ない。
モーニング娘。の編曲もしていたダンス✩マンの曲の中に「“ドーム3コ分”ってどのくらい?」という曲(Tower of powerの“ only so much oil in the ground”のカバーというか、替え歌)があり、その歌詞に、
“琵琶湖がスッポリ”ってどのくらい?
デッカイなと思うけどどのくらい?
とあるけれど、まさにそれである。
琵琶湖より広いってどのくらい?
デッカイなと思うけどどのくらい?
まあ、いいさ。実際に走ってみれば、その広さを体感できるだろう。
ということで、出発前夜の私は着替え(Tシャツ、下着、短パンそれぞれ一枚ずつ)と補給食、工具キット、それに少量の洗濯用洗剤とハミガキセットを容量多めのサドルバックに詰め込んだ。
そしてスマホとモバイルバッテリーを愛車メリダのハンドルにセットできるようにして、日焼け対策のアームカバーを用意した。
そうして準備を整えたあと、翌日8月15日9時の出発時刻に備えて早めに眠りに就いたのである。