とある日本語教師の身辺雑記

中国の大学で日本語を教えながら、日常の雑感や出来事を気の向くままに綴ります(最近は麺と猫と自転車が主)。

スピーチ大会が終わり平穏な日常が戻ってくる(11.25~27)

11月23日(土)

第5回合肥日商倶楽部スピーチ大会が開催された。

合肥日商倶楽部とは、合肥に支社や支店、工場などを構え、日本人駐在員を派遣している日系企業(花王とか日立とかヨドコウとか)及び駐在員からなる集まりである。

日商倶楽部スピーチ大会は、このクラブの後援により、日本語学部を開設している合肥の7つの大学が毎年持ち回りで主催している大会である

日本企業側にとっては地元の中国人学生や大学と交流する場を設ける意味合いがあるし、中国の大学側にとっては日頃の日本語教育の成果を競うかっこうの場となる。

もちろん合肥のような滅多に日本人と交流する機会がない地方都市で日本語を学んでいる中国人学生の諸君にとっては、不特定多数の日本人と交流する年に一度の得がたい機会である。

そんな本スピーチ大会は今年で5回目。

2015年度に第一回大会が開かれた計算になる。

私が初めて参加したのが重慶市から安徽省に移ってきたばっかりの2016年冬、第2回大会だった。

ということは合肥で教えてるようになって、もう季節は4周り目ということである。

‘岁月不饶人’(歳月人を待たず)。

 

今回は安徽三聯学院が主催校となっている。

なので、スピーチ大会も三聯学院のキャンパスで開催される。

第2回大会まではホテルを貸しきってスピーチ大会および打ち上げを行っていた。

しかしそれだと経費がかかりすぎるという問題があった(大会の全経費は日商倶楽部持ちなのである)。

なので第3回大会から、主催校にて大会を行い、打ち上げの食事会だけ外で行うことになった。

……と他人事のような書き方をしているが、第3回大会はうち(農大)が主催校で私が責任者だったから、私の一存でそう決めたのである。

私はもともとコーディネーターとか調整役とか、そういう「人と人とを繋ぐ」仕事に向いていない。

なので、このときは本当に大変だった(まあそれについては別に書かない、めんどくさいし)。

 とはいえ、先の独断は結果的に日本人駐在員の方々から「初めて中国の大学の中に入ってじっくり見る良い機会になった」とご好評頂き、翌年の第4回大会(安徽外国語学院)、そして今回の大会と、主催校のキャンパスを舞台とする運営方式が続いている。

まあ、結果オーライですね。

とはいえ、これはひとえに日商会側との実務者協議をこなしている、合肥の日本人教師の代表格(かつマネージャー)こと、安外の日本人教師K西先生のご人徳とご苦労の賜物である。

感謝。

そんなK西先生は今大会も早くから会場に来て走り回っておられた。

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 大会は午後からだが、現地で少し練習しようということで、ちょっと早めの11時にK先生の運転する車にSさんと乗り込み出発。

金塞路の高架を走り40分ほどで到着。

懐かしいキャンパスである。

私はこの大学に1年間だけお世話になった。

身勝手な都合で今の大学に移ることになったが、それでもこの大学での1年には色々と思い出深いものがある(年末に足を捻挫して動けなくなったりしたし)。

 

さっそく受付へ行き登録。

ほかの学校の姿はまだ見えない。

我々が一番乗りのようである。

三聯の外国語学院副院長であるX先生をお見かけしたので、馳せ参じてご挨拶。無沙汰を詫びる。

X先生は日本語学部のトップであるが、同時にとても気さくな先生であり、私にとってはまるで「お母さん」のような存在である。

今回も私を頭からつま先までマジマジとご検分なさったあと「あらあら、痩せましたね」とのこと。

そうかなあ(ふひひひ)。

在任中、X先生にはとても恩を受けた。

2016年の年末にヘマをして足を怪我し家から一歩も動けなくなった時には、お願いしてもいないにも関わらず野菜やら卵やらを先生自ら買いだし私の家まで持って来てくだった。

深謝。

やたらとお見合いを勧められたり、マフラーの巻き方を注意されたり、X先生が運転する車に捻挫が治りかけの右足を轢かれかけたりと、ほかにもいろいろ面白いこともあったが、それを含め思い出深いものである。

 

そんなX先生に挨拶を済ませたあとそそくさと失礼して会場へ。

まだお客さんが入っていない。

これ幸いとステージを勝手にお借りし、SさんK先生と一緒に最後の練習をする。 

Sさんは外部の大会に参加するのは初めてなので、やや緊張気味のご様子。

まあ、なるようになるさ。

頑張れ。

 

そうこうしているうちに開会時間となる。

私は審査を担当するので審査委員席へ。

ほかにもI木先生やK森先生、H田先生など、合肥市内の大学でお勤めの日本人教師が並ぶ。

ネイティブ教師以外にも、中国人の先生方や日系企業の偉い人たちも審査委員を務める。

一般的に中国の日本語スピーチ大会は、全選手共通の大会テーマに沿った「テーマスピーチ」が終わったあと、各々の選手が舞台に上がる直前(10分前とか)にそれぞれ提示されたテーマに応じて即興でスピーチする「即席スピーチ」の二部構成からなる。

合肥日商スピーチ大会でも第三回大会までは「即席スピーチ」があったが、前回大会から即席スピーチが廃止された。

その代わりに、テーマスピーチが終わったあと、その場で選手に対して3人の審査委員から質問が出されるようになった。つまり、その応答に対して審査委員が点数をつけ、テーマスピーチの点数と質疑応答の点数の合計で勝敗を決定する方式が採用されたのである。 

これはとても良いやり方だと私は思う。

テーマスピーチは事前に原稿を準備し、それを覚えてスピーチするので、スピーチだけだと(極端な話)教師が代わりに書いた原稿を出来のいいロボットよろしく暗唱するだけでも、十分に「好成績」として成り立ってしまう。

これだと面白くない(私は)。

しかし質疑応答を課せば、その学生が原稿を自分で考えたかどうか、内容を理解してスピーチしているかどうかなんて、一目瞭然である。

これはとても面白い(私は)。

何が面白いかというと、学生さんの臨機応変な回答も面白いのだが、質問をする審査委員の傾向や癖が浮かび上がる様子も面白いのである。

先に述べたように、この大会の審査員は「日系企業のお偉方、中国人教師、日本人教師」という3つの異なるファクターからなる。

だから、日本の企業人、中国人の教師、ネイティヴの教師という、それぞれ異なる職業エートスを有する人間が集まる以上、非常にバラエティに富んだ質問がビュンビュン飛び出すことになるのである。

ガチガチの緊張状態でスピーチを済ませたうえに「試問」を受ける学生さんは堪ったもんじゃないだろうが、それでも気楽にフロアで「岡目八目」である学生諸君にとっては、良い勉強になるだろう。

「へえ、いろんなことを考える人が居るんだなあ」って具合に。 

もっと言えば、審査員のいろいろな質問を客観的かつ一望的に見ることで、質問の善し悪しについて考える良い機会にもなるだろう。

ふつう「質問」という言葉は「受ける側の質を問う」ものとして理解されている。

しかし私が思うに「質問」とは、「する側の質が問われる」ものでもある。

質問には様々なものがある。

学生さんが「言いたいこと」を広げてあげる質問もあるし、認めてあげる質問もあるし、絶句させる質問もあるし、鼻で笑う質問もある。 

教育の場では、そのどれがいいとか悪いとかいうことはない。

大切なことは、その質問が目の前の学生さんの豊かな成長に資するものであるかどうかである。

だからもっとも効果的な質問というものは、実は問いを受けた時点ではなく、むしろ後々になってその問わんとしていた意味や意義が初めて理解されるということが多い。

そしてその時になって初めて「ああ、あの人は私にとって本当の意味で先生だったのだ」と学生さんは気づくことになるのである。

そういう意味から言えば、教師に求められるのは、たとえその場では「はあ? なにいってんのこいつ」としか評価されない質問であろうとも、それが学生さんの心のなかでしぶとく生き残り、後々の学びを開花させる種になる問いであるという確信があれば、「はあ?」と評されることを恐れずに問うという勇気である。 

もちろん「はあ? なにいってんのこいつ」としか評価されない質問のなかには本当に「はあ? なにいってんのこいつ」としか評価できないものもあるので、その見極めは必要だ。

したがって「学生の質を見極める」ための問いを提出しつつも、そうやって提出しつつある問いと、その問いの来源たる自分自身の質を見極めることができるかどうかが鍵になる。

問う者に問われる質とは、そういうものである(おお、偉そうなことを)。

 

なんてことを考えているうちに挨拶やらなんやらが終わり、スピーチ開始。

前回の日記に書いたように今回のテーマは「中華料理」。

合肥市内6つの大学から参加した13名の学生さんがそれぞれのスピーチを披露してくれた。

私は計4回質問を担当した。

そのことでいろいろと書きたいことがあるのだが、書き出すと長くなるのでまた今度。

結果から言えば、右隣にすわったH田先生の質問と個性がやたらと目立った大会であった。

 

肝心の大会結果はというと……。

まさかのSさんが特等賞(!!)

いや、「まさか」というのはあれかもしれないけどさ、びっくりしたんだもの。

だって2日前にやっと原稿が完成する有様だったんだぜ。

それにSさん本人もびっくりしているのである。

とはいえ、確かに今回見たなかでは、内容や日本語、質疑応答全部の面において一番良かった。

とはいえ(2回重ねるな)、そこには指導教師である私の主観的臆断が多分に含まれているはずである。

とはいえ(……)評価システムとして「最高得点と最低得点を除いて集計する」という規定があるので、指導教師である私が最高得点をあげたとしても審査には影響しない(はず)。

ということで、安心して「おっ、この子面白いじゃん。どこの子? あ、うちの学生じゃん!」と評価させていただいた。

が……まさか優勝するとは思わなかった。

とはいえ(もういいよ)、おめでとう。

私も嬉しいです。

前回の日記で散々「順位のために指導なんてしない」とか書いておいて、実際に順位をいただいたあとにこんなことをいうのも節操無いかもしれない。

しかしながら、こうして公明正大な審査委員の方々から評価を頂くのはやはり嬉しいものである。

「ああ、言葉が伝わったのかなあ」って。

良い結果が出たからいうわけではないが、それでも「順位のために指導して順位を得る」のと「自分の伝えたいこと第一でやりなさい、順位はそのあと」という態度で評価を頂くのとでは、やっぱり違うと思う。

だって後者だと「え、予想外だわ」という不思議な感覚が味わえるからだ。

私はこれまで競技としてのスピーチ大会のみに注目し、スピーチ大会の現状をかなり否定的に見てきた。

しかし、スピーチという言語活動が持つコミュニケーション的役割を深く考え、そのような活動を通じて如何に学生さんを知的に成熟させるかという工夫を凝らすことには、絶対に教育的意義はある。

そして、もしかしたらその努力は、大会という場においても「伝わる」のかもしれないし、そのリアクションとして(あくまで結果としてだけれども)賞を頂くということは、あってもいいことなのかもしれない。

今回の大会のために指導を重ねるなかで、少しずつそう思うに至った。

っていうのは、なんか定見がないようで恥ずかしいけれど、それでも大学からお鳥目を頂いている身として、大学に少しだけ貢献できたことは素直に喜ぼうと思う。

市レベルの大会とは言え、当校が日本語スピーチ大会で特等賞を頂くのは初めてである。 

というか、そういえば指導した学生が優勝するというのは私にとっても7年間で初めて。

ここは素直に「ありがとうございました」と申し上げたい。

ともに指導したK先生とガッチリ固い握手をして互の労を労う。 

 

18時過ぎから近くのレストランで懇親会なので移動する。

その途中でO主任から「やりましたね!」とお祝いの電話を頂く。

お悦びのようでなにより。 

 卓を共にした学生さんや日本企業のかたがたとワイワイ楽しみ、21時には帰宅。

シャワーをゆっくり浴びたあとベッドに潜り込み、ぐっすり眠る。

 

24日(日)

寒い。

朝起きたら雨。
今シーズン初めてホットカーペットを敷く。

ついでに電気ヒーターも稼働。
あったかい。

ホカホカする。

うー、布団から出たくないぞ。

というわけで、結果的に昼に散歩兼ラーメンを食べに外出した以外はずっと寝床で過ごす。
冷たい雨が降る冬の日曜日に布団の中でゴロゴロ寝て一日を過ごす幸せときたら、筆舌に尽くし難い(とはいえこうして書いてるのだけど)。

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25日(月)

冷たい雨がシトシトと振る月曜日。

 

「ビジネス日本語」では「ほう・れん・そう」に関連して、「自分が知らないこと」を知ること、「自分でできること」を見分けることの大切さや、メッセージをそのまま処理するのではなく、メッセージに込められたメッセージ(メタ・メッセージ)を探ることの重要さについてお話する。

寒さのせいか舌が回らない。

3年生の諸君は「ちょっとなにいってんのかわかんない」という顔をしていた。

ごめんね。

 

 4年生の「視聴説」では、「赤めだか」(TBS)をお見せする。

2年生のときから一緒に勉強してきた彼らの授業もあと3回となった(来学期はみなさんインターンやら院試やらで授業がないからである)。

 もうすぐ卒業する君たちに、このタイミングで、師弟関係を描いたこのドラマをご覧に入れる意図がおわかりだろうか。

じっくり見てゆっくり考えてね。 

 

午前の授業が終わり昼過ぎになるとますます気温が下がり、窓の外では雨が雪へと変わって降り出した。

今シーズンの初雪である。

寒いわ!

16時まで机仕事を片付けたあと、2年生の「会話」をこなし、さっさと家に帰って布団に潜り込む。

 

26日(火)

6時半起床。

相変わらず寒い。

気温は日中でも7度前後。

加えて冷たい冬の雨が断続的に降り続いている。

熱いシャワーを浴びて目を覚まし、ヒゲを剃り、身支度をする。

あまりに寒いのでパーカーの上に革のライダースジャケットを羽織る。

途中でりんごを買ったあと大学へ。

10時からの授業をこなし、14時まで雑務を片付ける。

ここ数日ゴロゴロしていてお腹がたるんできたので、14時半からジムへ行く。

みごとに男ばっかりである。
決して広いとは言えない空間が野郎どもの「うぅ…」とか「ふう!」といった類のうめき声・吐息で満ちている。
まあ、そういう私も野郎なんだけどさ。

軽くトレッドミルで走ったあと、チェストプレス、ショルダープレス、レッグプレス、レッグカール、ケーブルプレスダウンなどなど、身体全体の筋肉をイジメる。

本当は部位を細かく分けて毎日違う部位を集中的に鍛えたほうがいいのだが、忙しいから週3ぐらいしかジムに来れないので、せっかく来た時に徹底的にやっておくのである。

家に帰ってシャワーを浴びたあと、 18時半からSさんとOさんと一緒にうちの近くの「川西坝子」というお店へ行き、火鍋をつつきながらスピーチ大会の祝勝会兼研究計画書の進捗具合聴取会。

やっぱり冬は鍋である。

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二つに仕切られた鸳鸯锅(おしどり鍋)。左は牛脂ベースの辛いスープ、右はトマトベースのあっさりスープ。

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エビのつみれ。プリプリしていて美味。

鍋をつつきながら3時間ほど歓談。

美味しかった。

会計を済ませ店を出たあと、寮に帰る2人と別れ、腹ごなしに小一時間程散歩をして帰宅。

シャワーを浴びて寝る。 

 

27日(水)

ああ、寒い。

昨日と全く同じような天気が続く。

8時起床。

授業はないが大学へ行く。

熱くて濃いコーヒーを飲んで仕事に取り掛かる。 

午前中は期末テストの問題を作る。 

私は仕事が大好きなのだが、それでも嫌いな仕事が3つくらいある。

テストを作る仕事はそのうちで3番目に嫌いな仕事である。

ちなみに二番目は「テストを採点する仕事」、一番目は「テストの成績を処理する仕事」。

ようはテスト関係の仕事が大っ嫌いなのである。 

学生諸君だってテストを嫌っているかもしれないが、それでも君たちはテストを受けるだけで冬休みじゃないか。 

羨ましい。 

なんて愚痴をブツブツ言いつつ作業を進めるものだから、ぜんぜん捗らない。

あーもういいや。

今日はここまで。 

このお仕事は明日以降に持ち越し。

家に帰ってさっさと寝よっと。