宴会と「遠足」。
忘年会シーズンである。
土曜日はO主任のお誘いで、外国語学院の数名の方々とご一緒した。
場所は大学近くのいつもの「名园」。改装中だが内装は完成していて、ずいぶん綺麗に明るくなっている。
心なしか、料理も以前より美味であるように感じる(以前は美味ではなかったというわけではない)。
中国の酒席ということで、「白酒」が出る(日本語ではよく‘パイチュウ’と言われるが、個人的には‘バイジュウ’)。
同じ漢字でも、日本の「白酒」(しろざけ)とは色も度数も似て非なるものである。
今回頂いたものは度数50度。
中国では、これをちいさなグラスに注ぎ、「干杯」(乾杯)の掛け声とともに(文字通り)飲み干す。
白酒を頂くのは久しぶりである。
個人的には「辛い」白酒よりも「甘い」白酒が好きなので、日本でも有名な「二锅头」などよりは四川の「朗酒」などの方が好み。
今回の白酒(名前を失念)は、そういう点から言うと私好みでした。
中国の方々は「良い白酒は次の日に全然残らない」とよくおっしゃるが、そういう意味でも今回頂いた白酒は「良い酒」だった。
私を入れて7名臨席していたが、O主任とK先生以外の方々は日本語をお話にならないので、自然と中国語を話さなければならなくなる。
別に中国語を話すのはいっこうに構わないのだが、となりに日本語がわかる先生がおすわりになっていて、私と話すときは日本語をお話になるので、ちょっと混乱する。
日本語の「頭」と中国語の「頭」を切り替えるのに手間取るというより、日本語の「口」と中国語の「口」を切り替えるのが大変なのだ。
中国語は(というか多分外国語全般に言えることなのだろうが)ある程度はっきり「口」を動かし「舌」を回さないと「ちょっとなにいってるかわかんない」(by サンドウィッチマン富沢)ので、この「口」の切り替えは非常に大切だ。
日常生活の「衣食住」には必要とされない中国語会話(日本の新幹線と中国の高速鉄道についてとか、日本人の栄養状態の改善と平均身長の話とか)を久しぶりにしたので、自分のオーラル中国語の水準にがっかりする。
やっぱり、会話も勉強せねばなるまい。
なにはともあれ、食事もお酒も非常に美味であったし、みなさんもたいへん愉快な方々であったので、楽しい時を過ごすことができました。お誘いくださったO主任に感謝。
翌日日曜日はとくになにもなかったので、ぶらぶらして過ごす。
なんとなく外に出て、地下鉄のパスカードを作る。
そのあと通りがかった路線バスになんとなく飛び乗り、窓の外を眺めながら、面白そうな風景を探す。
これは今学期の面接試験で「今学期私がいちばん意義深かったのは『遠足』です」と答えてくれた学生さんの影響である。
「遠足? 遠足って何? 『旅行』と何が違うの?」
という私の問いに、彼は「遠足」と「旅行」の違い、「目的性」のなさゆえの自由さ、「視野」を広げる必要性について、などなど……いろいろと語ってくれた。
たしかに、彼の「遠足」の詳細を聞くと、それは「旅」でもなければ「旅行」でもないし、「散策」でもなければ「ピクニック」でもない。「遠足」と呼ぶしかなようなものだった(別に「遠足」は学校行事だけに限った語彙ではないし)。
ちょっとびっくりしたのは、授業中はほとんど喋らない寡黙な学生さんなのだが、自分の考えを述べるために口を開くとすらすらと淀みなく言葉を紡ぎ出して見せたことだ。
別に彼は面接用の出来合いの言葉を再現しているわけではなく、こちらの「聞きたいこと」にちゃんと対応して考え、その場その場で言葉を発している。
こういう「意外性」に出会うことこそ、コミュニケーションの喜びである。
というわけで、私は面接官として採点する一方で、「それ、楽しそう」と思ってしまった。
「それ、楽しそう」と思ってしまった物事に対しては「ミーハー」で「主体性」などなくなる人間なので、早速自分でも試してみた次第である。
やってみて初めて知ったが、たしかに、これは面白い。
だいたい私は路線バスというものがあまり好きではない(小学校のときは「おうちから離れる」のが怖かったし、中学・高校のときはがさつな愛すべき先輩たちと顔を会わせ過ごさなければならなかったから)。
「路線バス嫌い」は中国でも変わらないのだが、目的地もやらなければならないことも頭に入れずに、気分だけで「ちょいっと」飛び乗ってみると……。あら不思議。バスの中の光景(うんざりした顔の運転手とか、喧嘩しているカップルとか)も、見慣れた街の風景も、結構違って見えるものである。
15分ぐらい乗っていると、高架を走るバスの窓から遠くに大きな湖らしきものが見えたので下車。
「湖らしきもの」があるであろう大体の方向を見定めて、とりあえずトコトコ歩く。
歩いているとなんとなく空腹を覚えたので、なにか食べられそうなところを探す。
いい感じのラーメン屋があったので、入る。
ラーメン屋とはいっても日本の「ラーメン」とは違い、手で伸ばし叩きつけるようにしながら打っていく正真正銘の「拉面」を出すお店。
とりあえず「牛肉拉麺」(9元)とトッピングに「昆布」(結び昆布3つで1元)を注文。
注文を受けてから麺を打ってくれる。感じがあっていい。
運ばれてきた麺を美味しくいただき、バスから見えた湖らしきものを目指して、腹ごなしに小一時間ばかり歩く。
湖と思ってたそれは、実は「董铺水库」(dong3pu1)という名のダムというか貯水池というか、そういうものだった。
そういえば、たしかに地図を見るときによく大きなダム(というか貯水池というか)を見かけたものだったが、これがそれなのか。
水辺は心落ち着くものである。
何をするでもなく、日曜の午後を過ごす。
「遠足」もたまにはいいものである。