自転車で2泊3日巣湖1周旅行(2日目 巣湖市内~三河古鎮)
8月16日(金)
窓から差し込む朝日で5時半に自然と目が覚める。
昨晩は22時に寝た。
睡眠時間は十分である。
体調も良い感じ。
今日は気持ちよく走れそうだ。
よっぽど疲れていたのかぐっすりと眠り込んでいるRくんを置いて、朝の散歩を兼ね朝食をとりに外へ行く。
ホテルから一歩出ると綺麗な朝焼けが。
中国の朝は早い。
まだ6時になっていないというのに、街には散歩やジョギングで体を動かす人たちや、慌ただしく出勤する姿がちらほら見受けられる。
現地の人にとっては日常的なそんな朝に、外部の旅行者として非日常性を感じながら歩く。
結構楽しい。
そうやって歩いているうちにお腹がすいてきたので、マントウ(饅頭)やお粥、豆乳に揚げパンなどの「これぞ中国の朝!」というべき朝食を提供しているお店を見てまわる。
店先に大きな鍋と机を出して麺を打っている一軒の拉麺屋がけっこういい感じだったので、そこで朝食を済ませることに。
店に入ると壁のメニューをちらっと眺め、素拉面(大、7元)を唐辛子抜きで注文する。
注文が終わったので10畳ほどの広さの店内を改めて見渡す。
つけっぱなしの壁掛けテレビではCCTVのニュースが流れている。メガネをかけた国際政治アナリストらしき人物がトランプの対中姿勢についてなにやら滔々と解説している。
私のすぐ後に入ってきて隣に席を取った父と息子の親子連れが水餃子を頼む。そしてこれからの予定について額を合わせて話している。
私の目の前のテーブルでは肉体労働者らしきよく日に焼けたおじさんが瓶ビールとつまみでちびちびやっている。
店の入り口付近では店主が客の注文を受けるたびに大きな鍋に麺を放り込んでいく。鍋からは白い湯気が濛濛と立ちのぼり、麺が茹でられるときの良い香りが店内を満たしていく。
そういう風景をただぼんやり眺めているうちに私の麺が運ばれてくる。
まさに「素ラーメン」である。 肉も野菜も入っていない。
しかしこのシンプルさがいい。
麺はコシがあるうどんのよう、私好みだ。
おそらく牛ベースだろうスープもしっかりと旨みがある。
ズルズルと麺を食べ進めていく。
すると麺の下に薬味としてのパクチーが結構な量入っていたことに気づく。
ありがたい。
「カメムシ草」なんて呼び名もあるようにパクチーを好まない人は多いが、シャキシャキとした歯ごたえと鼻に抜ける独特の香りが味わい深いので、私は大好きである。
スープの最後の一滴までしっかりとお腹に収めて店を出る。
ごちそうさま。
ホテルに帰る途中、ボトルに入れるための水を1.5リットルと補給食として「青梗菜と椎茸の中華まん」を5個購入する。
どこからか現れた黒い子猫がやたらと絡んできて、物欲しそうな目で私を見る。
別にお前が食べられるものは何もないよ。
それともひょっとして猫って中華まんを好んで食べるのだろうか。
わからない。
しばらく猫と戯れたあと、ホテルに向かう。
今日は9時出発の予定。
ほんとうならばもっと涼しいうちに走り始めたほうがいいのだが、朝ゆっくり寝たいという私の意向もあり、そうなったのである。
昨日夕御飯を食べながら話し合った結果、今日は巣湖の下半分をぐるりと回る形で南西に位置する三河古鎮まで行き、そこで一泊することに。
ナビで調べたところ、走行距離は約80km。
8時になるとアラームでRくんが目を覚ましたので、出発準備を整える。
昨日のうちに洗っておいたアームカバーを装着し、パッド入りのレーパン(レーサーパンツ)を履いた上に、サッカーの短パンを重ね着する。
いまだにピチピチのレーパンを履いて街に出る気にならない。
8時50分、エレベーターで自転車と一緒にフロントまで降りてチェックアウト。
ホテルのとなりにジャイアントのショップがあったので、出発前にタイヤの空気圧をチェックしてもらう。
自分でも自転車に乗るのが好きだというこのショップの奥さんがOさんを目にして、「あらあら、女の子で自転車旅行とは珍しい」と好感を抱き、彼女が合肥からここまで背負って来ていたリュックをMTBの荷台にくくりつけるためにロープをくれる。
荷物を背負うより自転車に乗せたほうが楽だから、よかったね。
準備が整い、いざ出発。
まだ9時だというのに気温はすでに32度。
通勤ラッシュの市街地を慎重に抜けたあと、いきなり上り坂がやって来る。
3人ともすぐに汗だくになる。
アプリのデータ上ではそんなに大したことはないのだが、この日はとくに上り坂が多かったような印象を受けた。
とにかく緩やかな上り坂がずっと続くのである。
昨日に続き晴天の中、右手に巣湖を眺めながら、まっすぐ続くS316の坂道を2時間近く上りつづける。
13時すぎに中間ポイント(観光案内図によれば馬尾村の手前付近)に到着。ちょうど巣湖の「へそ」の部分である。
小さな売店があったので15分ほど小休止。 冷たい水を買ってボトルに詰め、トイレを済ませたあと、また路上へ。
走り出すと目の前に「兆河大桥」という大きな橋が見えてくる。
橋の長さは900m、タワーの高さは82mになるとのこと。
遠くからでもはっきりと見えていたが、近づくにつれその迫力が増していく。
自転車に乗り始めるまで知らなかったことだが、大きな橋を渡るということは上り坂を登ることと同義である。
しかし頑張って中間まで登るとあとは下り坂を駆け下りるだけ。心地よい風を受けながら坂を走り降りる。
1時間ほど走って巣湖に浮かぶ島の中で最も大きな「姥山岛」が見えてきたところで、おそらく昔サービスエリカか何かに使われていたのだろう、無人の建物が残っているのを発見。
時刻は14時前後、ちょうど1日のなかで日差しが一番キツい時間帯である。
日の光を避けるために屋根の下を借りて一休み。
建物内に残されていた蛇口から水が出たので、少し拝借して頭を濡らし顔を洗う。
Rくんがキツいというので、40分ほどここで過ごすことに。
小腹がすいたので、朝買っておいた中華まん(太陽のおかげで買った時よりもホカホカ)5個をペロリと平らげる。自転車に乗ると本当にエネルギーを消費するので、すぐお腹がすいてしまう。
日陰に腰を下ろし湖から吹いてくる風で涼む。
そうやってぼーっとしているうちに40分過ぎた。
出発の準備をするよう2人に声をかけるが、軒下の日陰に寝っ転がっていたRくんが「私はここで16時まで寝ます」と言い張る。
Oさんは先に進みたいとのこと。私も先を急ぎたい。あまり一箇所で休憩を続けると、「お尻に根っこが生えてしまう」からね。
本人が大丈夫というので、一人だけ残すのはちょっと不安だったが(パンク修理セットは私の手元にひとつしかないので)、Oさんと2人で先に三河を目指すことにする。
Rくんを残して出発する時に、Oさんに「もしひとりでパンクしたら大変だよ」とこぼす。この悪い予感が的中することになるのだが、この時はそんなことなど露知らず、我々は先へと進んだのである。
ひきつづき巣湖に沿って走るS601を数km進んだあと、南西へ向かうS231に乗り換え8kmほど進むと白山鎮でS103に出くわす。
この道に沿って10kmほど走れば目的地に到着である。
S103は農村や小さな町を突っ切る道なので、中国の田舎の風景を眺めながらペダルを漕ぐ。
15時半ぐらいに、今日の宿泊地である三河古鎮に無事到着。
ふー。前半は上り坂が多かったけれど、気温が最高潮に達した後半部分がいちばんきつかった。
なにはともあれ、三河についた。
安徽省に来てからというもの、有名な観光地として三河古鎮の名前はよく聞いていたが、実際に来るのは初めてである。
ホテルが古鎮のなかにあるので、滑りやすい石畳を自転車を押しながらホテルまで進む。
中国では各地にこういう「昔の街を再現しました」タイプの観光地がある。
重慶には磁器口というスポットがあり、よく行ったものである。
しかし、ここはあくまで「再現」であって、そこで誰かが日常生活を送っているわけではなかった。
なので、いうほどの味わいはない(人が多すぎるし)。
三河古鎮は初めて来たけれど、人々がちゃんと古鎮のなかで日常生活を営んでいる点がなかなか好印象である。
タバコ屋のお姉さんがカウンターで店番をしながらどんぶり飯を頬張っていたり、おばあちゃんたちが日陰に椅子を持ち出して井戸端会議をしていたり、よく日焼けしたおじさんが軒下で魚を捕るための網の手入れをしていたり……。
観光地ではあるが人がそんなに多くないところも好印象(まあ平日だからね)。
古鎮の中には運河が流れている。
水辺というのは不思議に人間を落ち着かせるもので、だからだろうか、非常にゆったりとした時間が流れている。
5分ほど歩いて今日の宿に到着。
ワンちゃんがお出迎え。
チェックインを済ませたあと、エレベーターがないので階段を使って自転車を2階の部屋まで運び込んだあと、ほっと一息。
すぐさまシャワーに向かう。浴びおわるころには時計の針が16時を指していた。
ベットに横になり、ちょっと休憩。
そういえばRくんはもう出発しただろうか。
そんなことを考えていると、その本人から連絡が。
「目が覚めると前輪がパンクしていました。今、修理してくれる人を探して歩いています」
そら、みたことか(悪い予感というものは当たるものである)。
あんな人里離れた場所で備えもなしにパンクしたら大変だよ。
こんなこともあろうかと私はMTBのチューブをちゃんと持ってきていたのが、あいにく空気入れはひとつしかない。
仮にそれをRくんに渡したあと自分がパンクしたら洒落にならない。
それに普通に考えればMTBよりロードバイクのほうがパンクする可能性が高い。
だから、彼にパンク修理キットを渡さなかったのだ。
すまぬ。
でも、単独行動ってそういうリスクがあるんだよ。
しかし、Rくんいわく「親切なお姉さんに会って業者に来るまで迎えに来てもらえることになりました」とのことなので、とりあえず一安心。
よかったね、親切なお姉さんに会えて。
とはいえ修理やら移動やらで三河に来るのが18時を過ぎるとのことなので、それまでOさんと一緒に古鎮のなかを歩いて回る。
古鎮の中心は石の城壁で囲まれているようで、中には立派なお寺(ちゃんと剃髪し袈裟を身に纏ったお坊さんがいる)もある。
街の景観を守るため、商店の看板は黒や茶色に統一されている(チェーン展開するレストランまで。まるで京都や桜島にあるコンビニみたい)。
歩いていると人力車(日本とは違い三輪車だが)のおじさんが「乗ってきな、古鎮を案内するから」と声をかけてくる。
しかし自分のペースで見てまわりたいのでスルーする。
歩いているとお腹がすいてきたし、だんだんと夜の帳も降りてきたので、今夜のごはんについて相談する。
三河の名物料理といえば、「米饺」(mi3jiao3、米で作った皮で包んだ餃子)が有名で何度か食べたことがあるが、個人的にはとくに美味しいというものでもないと思う。
いろいろなお店を見ていくなかで、やっぱり「土菜」(tu3cai1、伝統的な田舎料理)がいいねということになり、よさげな店に入ってRくんを待つことに。
キンキンに冷えた「雪花ビール」とピーナッツ、ピータンをオーダし、ちびちびやっていると、Rくんが満面の笑みで登場。
いわく、突然のアクシデントが楽しかったらしく、親切なお姉さん(美人)と出会えたことも嬉しかったとのこと。
よかったね。
なぜパンクしたのかというと、仮眠を取る間に自転車を盗まれないよう軒下にまで移した際に、落ちていたガラス片を踏んでしまったからだそうな。
災難だったね。
まあ、でも本人が楽しそうだからいいか。
なにはともあれ無事に(?)二日目の行程を走りきったので、乾杯。
太陽にジリジリと苛められた体の隅々にまでビールが優しくゆきわたる。
全員揃ったのでさっそく料理をオーダー。
2人は今日頑張ったから、今夜は私がご馳走しよう。
さあ、好きなものを頼みたまえ。
メニューを吟味しながら各自気に入ったものをセレクトした結果、「卵とエビの炒め物」「旬の野菜炒め」「農村風雑魚の煮込み」「ナスとひき肉の炒め煮」「トマトと卵のスープ」などが机に並ぶ。
すべて美味し!
改めて思うが、中国料理(中華料理ではなく、中国料理)ってすごく美味しい。もちろん高級店の料理も美味しいんだけれども、こういう普通の田舎料理や家庭料理の底の深さが素晴らしいと思う。
ちょっと量的に頼みすぎたので、ご飯と一緒に残ったものは持ち帰って明日の朝ごはんにすることに。
晩ご飯のあとはそれぞれ腹ごなしに散歩をしたり部屋でネットをしたりして過ごす。
私はふらっと歩いてみることに。
夜の古鎮は至るところがライトアップされ、優しい音楽が流れている。
昨日は満月だったらしく、今夜の月もほぼ満月に近いまんまるお月さん。月は古鎮に映える(スマホのカメラでは写し取れないのが残念)。
30分ほどぶらついたあと部屋に戻ってシャワーを浴びなおしながら洗濯をする。
洗い物を干し終わるころには21時。
仮眠をたっぷりとったRくんはピンピンしているが、私はそろそろ眠い。
明日の出発時間を10時に決めてみんなに連絡したあと、就寝。