とある日本語教師の身辺雑記

中国の大学で日本語を教えながら、日常の雑感や出来事を気の向くままに綴ります(最近は麺と猫と自転車が主)。

8月の終わりと始まりの季節。

世界中の多くの国と同じく中国では9月から新年度。

日本では始まりの季節は春だが、中国では晩夏である。

まだまだ暑い。

そんななか、うちの大学ではちょっと早めに月曜日(8月26日)から新学期が始まった。

ちょうどその月曜日には2年生から4年生まで授業が入っている。

教室で学生諸君と久しぶりに顔を合わせる。

1年生は2年生になり、2年生は3年生になり、3年生は4年生になった。 

とはいえ、学生さんたちは新しい学年にまだまだ馴染めていないようで、このまえまで2年生だった学生さんたちに「あなたたちは3年生ですよ」と語りかけても実感がわかないようでなんだかぼんやりしている。 

かくいう私も同僚の先生と3年生の話をしている時にうっかり「2年生は……」と口走ってしまったりする。

なかなか新しい年度だという気持ちにはならない。

それは1年生が学校に来ていないということも原因としてある。

中国の高校や大学では新入生に対して入学直後に1ヶ月ほど“军训”(軍事訓練)という教育課程が課される。

この期間1年生は全ての授業がストップし、帽子から靴までおそろいの迷彩服に身を包み、大学の中で朝から夜までこの「軍事訓練」に明け暮れることになる。 

「軍事訓練」とは言っても、別に銃をうったりするわけではない(と思う、みたことないから)。 

基本的には行進の練習をしたり、整列の精度を競ったり、みんなで歌を歌ったり……。いわゆる集団規範を高める訓練がメインであるようだ。

なので、この時期のキャンパスは至るところに真新しい迷彩服を来た新入生や彼らが発する掛け声が満ちている。 

そういう風景を見ると、「あー始まりの季節だなぁ」と私はしみじみと感じるのである。 

 

そんなこんなで新しい年度が始まった。

新学期の時間割を見る。

けっこう「あたり」である。 

なにしろ授業が入ってるのが3日だけなのだ。

週休4日である。 

しかも、水曜日と金曜日がオフ。 

つまり、週の中日に一息つけるし、毎週三連休なわけである。 

嬉しい。 

とはいえ、月曜と奇数週の木曜は6コマ(1コマ45分)入っている。 

これは1日の授業数としてはちょっと多い。 

1日立って6コマ喋るとけっこうきついんだよね。

学生さんにそう愚痴をこぼすと、羨ましそうな表情で「私たちは毎日“满课”ですよ」とのこと。

あら、それは大変ですね。

でもね、授業を「する」のと「受ける」のは違うの。 

君たちは椅子に座って飲み物飲みながら見ているだけでも授業は成立するでしょう。

こっちは喋らないことには始まらないんだから。

そういえば中国語ではどちらも“上课”である。

だから、中国人学習者はよく「私は教授業をします」と言い間違う。

おなじような間違いだと、「手術」もそうで、今週の会話の授業で2年生が「私は夏休みに手術をしました」と言っていた。

「あなたは患者なので『手術を受けた』と言ったほうがいいですよ」と訂正した。

ということを書いていて「ん?」と思った。 

日本人でも「膝の手術をする」という言い方をするときがあるな。 

「手術を受ける」のほうが適切だとは思うけれど、決して「間違っている」わけではないのかもしれない。あとで調べてみよう。

 

そんなこんなで授業をしているとき、ふと窓の外を見て、とある積年の疑問が解決した。

私を悩ませていたのはこいつである。

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 外国語学院(ここでいう「学院」は日本語の学部と同じ)の中庭にあるなぞのオブジェ。 

2年前に初めてこの大学に赴任した時から、こいつの正体がよくわからなかった。 

この大学は農業大学なので、おそらく農作物や植物に関係しているのだろうとは思った。

しかし、なんだろう(ピクミンみたいだ)。 

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赴任した当初、学生さんに聞いてみたが、「さあ」「知りません」(どうでもいいだろ)という答えしか返ってこなかった覚えがある。 

そんなこのオブジェの正体が2階の教室の窓からよく晴れた晩夏の広場を見下ろした瞬間に氷解したのである。 

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あ、これだったのか。 

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ザクロの果実である。 

どうりで2年間わからなかったわけだ。

夏に実がなっているところを見なければなかなか気づかない。

授業中(作文テーマを与えて書かせている時間)だったのだが、わからなかったことがわかった嬉しさで、おもわず学生さんたちにそのことを伝える。 

ほとんどの学生諸君は必死で原稿用紙に筆を走らせている。

耳を傾けてくれた優しい人たちも「はあ」というリアクションしかしてくれない。 

そうですよね、作文書いている最中だしね。 

ごめんなさい。 

しかし、わからなかったことがこうして解決したおかげで、けっこう機嫌よく第1週目の仕事をこなしたのであった。

 

8月最後の日は土曜日。

前日に「ろんぐらいだぁす!」という自転車アニメ(絵柄で敬遠して見ていなかったがけっこう面白い)を見て久しぶりに100kmライドに行きたくなったので、路上に出て8月の終わりを記念することにする。

ちょっと朝寝坊し9時に起きる。
天気は曇り。 

気温もそんなに高くはないので、快適に巣湖の北西を走る。
巣湖周辺は自転車専用レーンもあるし、何より風景がいいので、走っていて気持ちがいい。
途中多くのサイクリストとすれ違う。
いかにも移動の手段として自転車に乗っている人はただただすれ違うだけだが、本格的な装備や服装で走っている人たちはすれ違うと手を挙げて「やあ!」という感じで挨拶をしてくれる。
私も笑顔で同じように挨拶を返す。
自転車乗りには不思議な仲間意識がある。
自転車乗りとは、普通の人が「移動のために自転車に乗る」ところを「自転車に乗るために移動をする」という倒錯した存在である。 
ゆえになかなか自分の趣味への理解が得られないのである。
きっとそんな一般的には不可解な趣味を持つ得がたい「同士」に出会えたことに対して、自然な親しみを覚えるのであろう。

前回の「巣湖一周」のときには通らなかった南岸の途中まで走る。

ほんとうは120kmは走りたかったのだが、天気予報によると雲行きが怪しいので、片道50km地点にある大きな橋で折り返す。

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帰り道、少しずつ空に雨雲が広がってゆく。

レインコートを持ってきていなかったのでちょっと急ぐ。

そうやって合肥南駅付近に差しかかったところで、私と同じくMERIDAのロードバイクに乗っている爽やかなお兄ちゃんと遭遇。

今日初めてロード乗りを見た。
中国ではロード乗りはさらに少数派で、ほとんどのサイクリストはMTBに乗っている。 

中国の道は道幅は日本よりあるのだが、舗装状態が悪い。 

悪いというか、一見ちゃんと舗装されている道路でも、ところどころに謎のくぼみや傷跡があるのである。 

だから、マウンテンバイクの安定性と安心感が高く評価されている。 

いっぽうでロードバイクはなかなか普及していない(最近増えてきたらしいけれどね)。 
だからだろうか、私のロードをしげしげと見つめながら話しかけてきた彼といろいろおしゃべりをしながら数km走る。

「そのバイク軽そうだね」とか「そっちのホイール快適そう」とか、そんな会話をする。 

道が違うので、途中で「じゃあ、また」。 
またどこかの路上で会うかもしれないね。

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